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『ビジョナリー・カンパニー』書評

こんにちは。Fyneatブログ担当です。

有名すぎるくらい有名な本なので知っている人も多いとは思いますが、今日は名著『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則(ジェームズ・C・コリンズ/ジェリー・I・ポラス著、山岡洋一訳)』についてご紹介します。

名著たりえる素晴らしい本なので、読んだことのある人は復習として、興味がなかった人も話のタネの1つとして、この機に読んでみてはいかがでしょうか。

この本を書いたのはジェームズ・C・コリンズ(またはジム・C・コリンズ)という人です。スタンフォード大学卒、マッキンゼーやヒューレットパッカードで働いた後、スタンフォード大学の教授やCNNの役員などを歴任したすごい人ですが、アスリートの奥さんを陰に日向にと支えた、良き夫としての側面でも知られています。

『ビジョナリー・カンパニー』はシリーズ本で現在第4巻まで出ていて、なかでも人にフォーカスした第2巻、次いで組織論について述べた第1巻の評価が高いようです。

以降では概要について書きますが、この本の主張を私なりに一言で表すならば「企業繁栄のカギは基本理念にあり」です。

本の概要

ビジョナリー・カンパニーとは

起業を考える人のなかには「ビジネスアイデアに自信がない」「経営者としてやっていけるか不安」といった悩みを抱え、意欲があっても二の足を踏んでいる場合があるかもしれません。

この本の前半部分は、きっとそういう人に勇気を与えてくれます。

ビジョナリー・カンパニーとは

・業界で卓越した企業である

・見識のある経営者や企業幹部の間で、広く尊敬されている

・わたしたちが暮らす社会に、消えることのない足跡を残している

・最高経営責任者(CEO)が世代交代している

・当初の主力商品(またはサービス)のライフ・サイクルを超えて繁栄している

・設立後50年を経過している

という要素を満たす企業のことだそうです。 

私はこれを「長く続く、色んな意味で良い会社」だと受け止めました。

そんな企業、作れるものなら作りたいですよね。 

でも、どうやって?

その問いの解を探すに当たって注目すべきは、以下引用のとおり、ビジョナリー・カンパニーがよいアイデアや経営者のカリスマ性によってではなく、組織としてのビジョンを柱として成り立つものだということです。

「製品についてすばらしいビジョンを考えたり、カリスマ的指導者になろうと考える時間を減らし、組織についてのビジョンを考え、ビジョナリー・カンパニーとしての性格を築こうと考える時間を増やすべきである」

(P69より引用)

理念を作る

ビジョナリー・カンパニーを築くためには、基本理念を明文化することが重要です。もちろん紙に書くだけでなく行動することが大事ですが、それでもまずはそこから始めます。

特に中小企業だと理念を明文化するタイミングは遅いか、無い場合もあるかもしれませんが、早いに越したことはないのですぐに書いてみるべきだと著者は語っています。 

基本理念は基本的価値観と目的によって構成されます。

基本的価値観とは、組織にとって不可欠で不変の主義です。文化や経営手法と混同してはいけませんし、利益や目先の事情によって変えてはいけません。

目的とは、単なるカネ儲けを超えた会社の根本的な存在理由です。個々の目標や事業戦略と混同してはいけません。

……とまあ、著者の掲げる理論はわかっても実践は難しいですよね。

理念の設定方法については様々なアプローチがあるので、また別の機会で紹介したいと思います。

理念を維持して進歩を促す

うえで挙げた理念を活かすためには、理念を維持しつつ「進歩の意欲」を持ち続けなくてはいけません。大事なのは、両者のバランスを取ることではなく、同時に行うということです(ANDの才能)。

著者はこれを実現する仕組みを、具体的に5つのカテゴリーに分けて説明しています。

  •  社運をかけた大胆な目標(BHAG)
    思わずひるむほど大きな課題に挑戦する(進歩を促す) 
  • カルトのような文化
    ビジョナリー・カンパニーは、だれにとってもいい職場とは限らない。基本理念に合わないものは病原菌か何かのように追い払われることもある(基本理念を維持する)
  • 大量のものを試して、うまくいったものを残す
    綿密な戦略に基づくものではない、実験、試行錯誤、臨機応変の行動などによって生まれる新しい進歩が、ビジョナリー・カンパニーに発展をもたらす(進歩を促す)
  • 生え抜きの経営陣
    理念に忠実な者だけが経営幹部の座を手に入れるよう、引継ぎのはるか前から後継計画を立てる(基本理念を維持する)
  • 決して満足しない
    「明日にはどうすれば、今日よりうまくやれるのか」に取り組み続け、終わりのない修練を行う(進歩を促す) 

理念そのものも非常に重要ですが、本の後半では、それを活かす仕組みがなくてはいけないのだということが熱く語られていました。

内容の大まかなまとめはこれで以上です。

感想

私はこの本を初めて読んだとき「何よりも企業理念が大事だ」と言い切る著者に、とても驚かされました。えらく思い切ったことを言うなと思ったことを覚えています。

10年近く人事企画業務に従事し、Mission・Vision・Value(以下、MVV)や戦略の設定およびそのお手伝いに日常的に触れてきましたが、実は今もなお、どれが一番大切かと問われると答えに困るくらいです。

理念が大事であることに疑いの余地はないものの、何よりも大事だと言い切って良いのかという点には、やや疑問が残ってしまいます。

2011年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンも、その著書『ファスト&スロー』のなかで

成功した企業同士の比較は、多かれ少なかれ運の良かった企業同士の比較である。

運が大きな役割を果たす以上、成功例の分析からリーダーシップや経営手法のクオリティを推定しても、信頼性が高いとはいえない。

実際、『ビジョナリー・カンパニー』で調査対象になった卓越した企業とぱっとしない企業との収益性と株式リターンの格差は、調査期間後にはゼロに近づいている。

当初の差はかなりの部分が運によるもので、輝かしい成功にもそれ以外の平凡な業績にも作用していたため、この格差は必ず縮小することになる

という趣旨のことを語っています。

とはいえ、論拠もなくモヤモヤとしている私とは異なり、カーネマンの意見は、結論を導き出すための調査手法に対するきちんとした否定ですが。

ちなみに、このカーネマンの『ファスト&スロー』もおもしろい本なので、別の機会で取り上げたいと思います。

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