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『「教える」ということ』書評

こんにちは。

今回は『「教える」ということ (著:出口治明) 』をご紹介します。

著者の出口さんについては知っている人も多いと思いますが、日本生命相互会社を経て還暦間近でライフネット生命株式会社を創業、5年ほどで社長職を退き会長となり、2018年に立命館アジア太平洋大学 (APU) の学長に就任した人です。

読書と旅が好きで歴史に精通しており、それらをテーマにした著書も多く『人生を面白くする本当の教養』をはじめとするベストセラーをいくつも出しています。

実は私はこの人のファンで、著書は全部読みましたし、出口さんが出るテレビはなるべく録画して、講演にはなるべく出席できるよう必死にスケジュール調整するくらいには熱狂的です。

沢山のエピソードをもってこの人の魅力を語りたいところですが、あえて簡潔に彼を表現すると、穏やかでユーモラスな、頭の切れる知識人です。

今回の本はそんな出口さんが、学校教育から社会人教育に至るまで、幅広いテーマで「教える」ということについて綴ったものです。

採用ターゲット

出口さん曰く、日本の低迷を救う3つのキーワードは「女性」「ダイバーシティ」「高学歴」だそうです。

各項目の詳細についてはこのあと書きますが、これからの採用は「女性」や「ダイバーシティ」の観点をもって間口を広げて、自ら学び続けられる「高学歴」な人をターゲットにするとよいかもしれません。

特に新しいサービスを生み出したい、イノベーションを創出したいと考えている経営者にとって、この条件に合致する彼らは新しい糸口を授けるキーパーソンになる可能性があります。

女性

世界的に見て、サービス産業のユーザーは全体の60~70%が女性だそうです。需要側にそれだけの割合の女性がいるのだから、供給側にも女性がいたほうが顧客のニーズをつかむことができるだろうというのが彼の考えです。

そうでなかったとしても日本は女性の社会的地位が低いことで有名ですよね。

世界経済フォーラムのジェンダー格差に関する報告書「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数2019」では世界153か国中121位だったそうです。

たしかに日常のあらゆる場面でそれを感じることがあります。

夫婦で商談に訪れたカスタマーに対し、営業マンが夫にだけ名刺を渡すシーンや、夫を名字で呼び、妻を「奥様」と呼ぶシーンなどです。それに、旧時代的な会社では今もお茶くみやコピーが女性の仕事だったりしますよね。

これはあくまでそういう見方をしたからかもしれませんが、実際に日本での女性の社会進出は、全世界でも遅れをとっているほうなのです。

ダイバーシティ

以下p184より引用します。

オーストリア出身の経済学者、ヨーゼフ・シュンペーターによると、イノベーションとは、生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新しく結合させることです。

すなわち、シンプルに述べれば、既存知の新結合です。そして、既存知と既存知の距離が遠いほど、おもしろいアイデアが生まれやすいことが経験則として知られています。

この「既存知間の距離」を遠くするのがダイバーシティです。

これはAPUという、多種多様な人材が全世界から集まる大学の学長をする出口さんだからこそさらに実感を持って言えることかもしれませんね。

他方、今回は詳しく取り上げませんが、ダイバーシティを重視して文化的背景 (育った環境や受けた教育、暮らし方、日々の過ごし方、宗教観など) が異なる人材を採用した場合、経営者や会社を運営する側は、それぞれに配慮した環境づくりをする必要が生じます。

配慮の例としては託児所を作る、礼拝室を作る、窓のあるオフィスにする、ユニセックストイレを設置するなどがありますが、どこまでの要求に応えるのか (応えられるのかという予算的な都合もありますが) を見極めることも肝要です。

ダイバーシティの推進により素晴らしいアイデアが生まれることに期待が高まる一方、会社を運営する側としては、多様な人材の一人ひとりに対し、いかに不平等感を感じさせずにモチベーションを高く保ってもらうかということを慎重に考える必要がありそうです。

高学歴

一国の労働生産性は、ドクター保有者の総人口に占める割合と、きれいに正比例しています。これは、関西学院大学の村田治学長が指摘されていることですが、高等教育機関への公的支出や高等教育修了者の対人口比率と、労働生産性には、高い相関関係が認められています。考えてみたら当然のことで、好きなことを深く勉強した人がたくさんいる社会のほうが、アイデアが出るに決まっています。

P186より

高学歴というのは、何も偏差値の高い大学や大学院に入ることではありません。

人・本・旅で一生「学び続けること」です。

大学院を含め、一生学び続ける人材が「高学歴」な人です。

これは大人にも子供にも言えることですが、学ぶ対象は何でもよいので、とにかく学び続けることが大事なのだと思います。少なくとも出口さんは、興味があることは何でもやってみたらよいのだというスタンスの人です。

それは過去の何十冊にもおよぶ彼の著書のなかで、何度も繰り返し言っていることです。

余談ですが、最近マスコミや一部の教育機関が「子供」という表記を忌避し、使わなくなりました。「供」の字に大人の付属であるという意味がある、子供が神への生贄として捧げられていた頃の因習を表すなどとして、漢字の持つ意味そのものが子供への軽視につながるというのが理由だそうです。

長くなるので割愛しますが、「子供」の「供」という字はもともと中国で使われていた漢字であり、当時はけして悪い意味で使われていたわけではなかったそうですよ。

実際、文科省は「差別表現や否定的な意味ではない」として2013年に公文書を「子供」で統一するようにしました。

字義や成り立ちを学べば誤解は解けたはずですが、憶測や決めつけだけで声高に批判する人がいることで、こうして言葉づかいが変わっていくことを少しさみしく思います。

自ら学ぶ姿勢というのは、いついかなる時でも大事ですね。

社会人教育

出口さんが語る社会人教育というテーマのなかで、個人的に最も共感できる主張が「社会人に仕事を教えるときはマニュアル化に尽きる」というものです。

かつて私はいわゆる大企業で働いていましたが、100年以上続く日本でも知らない人はいないくらいの大企業であっても、仕事の多くがマニュアル化されておらず、非常に非効率な状態で進められていました。

「どんなに定型化できる仕事だとしても、先輩に聞いて、先輩の仕事を見て覚えろ」というのが基本スタンスでしたが、これにかける時間ばかりは、声を大にして何の意味があるのかと問いたい寿命の無駄遣いだったと言い切ることができます。

マニュアル作成のメリットとして出口さんは、

・業務プロセスの標準化が図られるので、品質安定や向上につながる

・個人の好みや美学による仕事のムダが明確になるため、作業時間を短縮できる

・人材の育成に役立つ

・外国人の雇用を確保できる

ということを挙げていました。

そしていいマニュアルの条件として、

・仕事の「目的」が書いてある

・その目的が、経営理念、経営計画とどのように結びついているかがわかる

ということを書いています。

日本ではまだまだ同質社会をよしとする気風がありますが、暗黙知や暗黙の了解をよしとするのはもうやめるべきでしょう。

もちろん、社会人教育の本質はマニュアル化の先にあります。マニュアル仕事ができるようになった社員をいかに育てるかがカギです。

ただ、まずは仕事のやり方や進め方を共有し、平均的に仕事ができるようになる、型を覚えるための教育をまずやってみてはどうでしょうか?

いわゆる「尖った人材」の尖った部分は、型を知らねば育たないというのが出口さんの持論です。

おわりに

私はコンサルティング会社での勤務経験があるため、それなりに色々な企業を見てきたと自負していますが、企業規模の大小に依らず、業務をマニュアル化するという意識が根付いていないところが多いように思います。

効率UPを求める一方で、いまだにそのような非効率な仕事の進め方をしているのはなぜなのでしょうか?

もしかすると、ただ慣習にもとづき「これまでもそうやってきたから」という理由で続けている会社も多いのかもしれませんね。

社員の多様化とその必要性が叫ばれる昨今、ゴーイングコンサーンのためには慣習を見直してみるのもよいかもしれません。

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